連載全3回のうち第1回目
作成:讃匠 麺研究センター
うどん生地は、「鍛える」と言う表現を使います。
この言葉がとんでもない誤解を招きます。
この「鍛える」と言う言葉から受ける啓示は、
「うどん生地は鍛えるとコシが強くなる。
よ~し、しっかり鍛えて、コシのあるうどんを造るぞ!!」と言う
インスピレーションです。
そしてこのインスピレーションから発生する行動は、
ミキシングの場合「生地は捏ねれば捏ねるほどコシが出るに違いない。
しっかり捏ねろ!ガンガン捏ねろー」。
踏み込みも、「やれ踏め、それ踏め、もっと踏め!」です。
(このあたりは、「純手打ち」のうどん職人さんの陥りやすい発想です。)
ところが、実際の現象は、「鍛えすぎると生地の組織を破壊する」
と言う事実です。
小麦粉の代表的性質が、灰分とたんぱく質であることがわかりました。 この2つの数値はもちろん、重要な性質には違いありませんが、 これだけで小麦粉の性質が決定されるわけではありません。
この2つは、小麦粉がもっているたくさんの性質の一部にしか過ぎません。 例えば、小麦粉に含まれるたんぱく質はせいぜい10%弱にしか過ぎず、 残りの大部分はでんぷん質です。
そして、この多くを占めるでんぷん質がうどんの性質に大きく影響します。 たんぱく質はグルテン形成にかかわる重要な性質ですが、 でんぷん質もうどんを作るうえにおいて、それに負けず劣らず大切なのです。 でんぷんの性質が違うと、うどんにした場合、食感や味も異なる訳です。
では、なぜ灰分とたんぱく質だけが特別な性質として扱われるのでしょう? その理由は、小麦粉がパン文化を支えてきたからです。
パンがうまく膨らむかどうか、またその色合いは、 小麦粉のたんぱく含有量、そして灰分に大きく影響されるので、 欧米人はこの二つを特に重要視したのです。
日本は元来稲作文化が主流で、現在の製粉技術は欧米から輸入されたものです。
そして、そのとき小麦粉の分析方法、 また検査方法も一緒に入ってきたのが主な理由だと考えられます。 ただ、現在ではでんぷん質の重要性も、 だんだんと認識されるようになりました。
小麦粉には、それ以外にも重要な特性がいくつかあり、 それらをまとめると次のようになります。
小麦粉には80種類以上のたんぱく質が含まれていますが、 その中で特に重要なのが、グルテニンとグリアジンです。 グルテニンは抗張力が強く、ひっぱって伸ばすのに強い力が必要です。 一方グリアジンは軟らかくべとべとしています。
これがなぜ重要かというと、この2つのたんぱく質が水と一緒になって、 小麦粉特有のグルテンというたんぱく質を作りだすからです。 グルテンには弾力性と粘着性があり、 この性質によって食パンは四角に膨らむことができ、 また、冷えても縮まないでその形を保てるのです。
建物にたとえると、グルテンが鉄筋、 でんぷんがコンクリートの役目をしているわけです。 また、うどんの独特のコシを与えるのも、このグルテンの役割です。 このグルテンという性質は、小麦粉特有のもので他の穀物にはありません。 他のたんぱく質はあっても、グルテニンとグリアジン両方のたんぱく質を持っている穀物は、 小麦以外にはないのです。
実際、米やとうもろこしなどの穀粉で、パンを焼いても、 ふっくらと膨らみません。 また、そうめん、うどんをつくっても、プツンプツン切れてしまうし、 弾力感もありません。つまり、このグルテンの働きがあるからこそ、 小麦粉は自由自在に加工でき、 用途が飛躍的に広がり、小麦は穀物の王様になったのです。
「うどん生地を鍛える」と言う作業は、 「いかにしっかりしたグルテン組織を生地の中に造り上げるか」と言う事です。
グルテンと言う物は、そこそこの弾力性を持ち、伸び縮みをしますが、 とてもじゃ無いですが、チューインガム程は延びません。
仮に、チューインガムを丸めておいて、一気に引き伸ばした場合、 あのガムでさえ途中までは延びたとしても、 後は力に耐え切れず切れてしまいます。
うどん生地の中のグルテンも、度を過ぎた鍛えには耐え切れず、 文字通り「切れて」しまいます。 度が過ぎる鍛えは、何にしても良くありません。
この「程よく鍛える」程度が、ミキシングの場合5分。 プレス(足踏み)は3~5回程度。 これがベストです。
生地の鍛えは、「程よく鍛えて、しっかり休ませる」事が大切です。
又、 チューインガムを例にとって述べると、 丸めたチューインガムを引き伸ばします。
但し、チューインガムが引き千切られる手前で手の動きを止めます。 (この加減が大事です)
そのまま、手の動きを止めて待っていると、 やがて張り詰めたチューインガムは、緩んで来ます。 緩んだチューインガムは、更に引き伸ばす事が出来るわけです。
うどん生地の鍛えも全く同じで、練りすぎ、鍛えすぎは、 かえってグルテン組織を傷めてしまいます。
「程よく鍛えて(程よくミキシング)」「しっかり休ませ」その後に「次の鍛え」 を行います。 そうする事でしっかりしたグルテン組織が出来上がります。